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令和の電卓侍として
税理士法人 宮田会計 代表社員税理士
宮田健一郎

私の事務所は、以前映画「武士の家計簿」の舞台となった加賀藩御算用場の跡地にあります。この場所に事務所を構えたのは、50年前に歴史が好きだった当時の所長である祖父がたまたま売りに出されていたこの地の由来を調べ、御算用場跡地という由緒正しき場所であることを知ったためです。事務所を移転してまでこの地にこだわりを持っていた当時の所長の生前の口癖は「税務署や官公庁が移転してもこの由緒正しき場所を離れるな」でした。実際に官公庁や大手企業は郊外へ移転し、弊社の支店もいくつか開設しましたが、本社として今も変わらずその教えを守り続けて今日に至っています。最近では中学生の修学旅行前のオリエンテーリングのチェックポイントとして当事務所前にある金沢市の看板が利用されています。

加賀藩御算用場は江戸時代、絢爛豪華な大名行列を披露した加賀藩の財政を司っていた場所です。「加賀百万石」と言われたように加賀藩の石高は非常に大きく、御算用場の規模は他藩の群を抜いていました。御算用者とは、そろばんを片手に、徴収した税金が適正かどうか、藩が支出した費用に不正がないかをチェックする武士のことで、当時は薄給の下級武士がその職務を勤めていました。

私自身は子供のころにそろばん教室に通ったわけでもなく、また当時の御算用者のようにそろばんを使って仕事をするわけでもありません。言うなれば電卓を使って計算する令和のそろばん侍です。しかし一方では、そろばんには電卓にはない数の重みを感じながら計算ができる味わい深さがあります。そろばんは一珠一珠をしっかり弾くことにより計算する。つまり一珠が米一俵であったり、兵士一人であったりするわけで、その一つ一つの重みを感じながら計算することができる道具なのかもしれません。

日々、期限に追われ数字を追い続けることが多くなりがちだが、電卓やパソコンを使いながらも積み重なった数字の背景や思いを感じて仕事ができるよう頑張っていきたいと改めて感じました。