リレー随想
登山と私

医療法人財団医王会 医王ヶ丘病院
理事長
岡 宏

 医師25 年目、若いつもりだったが「今どきの若い医師は…」と呟いているから驚きだ。歳を重ねたせいか、物事に対する感動もそれなりに薄くなり、仕事も忙しく新たに趣味を持つことなぞ終ぞ無かった。しかし有難いことに、ここ数年でひとつ経験することが出来た。

それが登山。スノーボードや自転車などを好む私は、自らを「ダウン系」の人間と位置づけており(人生からは転落しないように気を付けています、笑)、登るなど以ての外であった。しかし、海外の山々を毎年登っている先輩医師に誘われ渋々始めることに。そして初めて登るは、山梨の北岳。富士山に次ぐ高山で標高3,193m。二泊三日の山小屋泊。

サッカーをしていた私は体力にはそこそこ自信はあったものの、全日程雨天、急登、希薄な空気にやられ、慣れない悪路にほぼノックアウト。蛭はつくわ、ガスで景色もへったくれもないわ、山小屋に入れば畳1畳に3人で寝る状況。大方の予想されるとおり「こんなとこ二度と来るか!」と思ったが、翌朝拝めたご来光の傍、広大な雲海から顔を出す悠然とした富士の山、雷鳥親子のオマケ付き!! 今でも鮮明に覚えている。それ以来、年数回は2000m 級の山々を仲間と楽しく登っている。

精神科に認知行動療法という治療法がある。ものの考え方、受け止め方をストレスがないようバランスをとり、上手に対応する心の状態をつくる方法の事。登山中は自問自答を繰り返す場面が必ず出現する。「足が痛いがいけるのか」「休みたいが皆はどうか」「ここで雨が降ると滑落の危険もあるのでは」等々。自身との対話、仲間への気遣い、気候や地形への対応など、脳内はフル回転。そして登頂時の達成感!仲間と分かち合う喜び!短期間で自己効力感の得やすい登山は障害者の復職プログラムの一つとして応用出来るのではないかと密かにアイデアを練っている。もちろん登るは医王ヶ丘病院の裏庭、医王山!