いしかわの情趣~昭和30年代の風景~
大友楼 第6代当主 大友 圭堂氏が昭和30年代にNHKラジオにて当時の北陸での四季折々の楽しみ方を語りました。その原稿をピックアップして皆様にご紹介いたします。

文化財めぐり 石川県の工芸
昭和41年1月25日
NHKラジオにて

 加賀藩政期のはじめの頃になると、戦争という不安が次第に和らぐ時代になり、自ずと美術工芸に対する関心が深まってくるようになった。寛永十六年(1639年)六月、藩主利常公の命で家臣数名に沢山の金銀を持たせて長崎方面に出張させて古い裂地(織物)を買い付けに行かせた。途中京都で目利きの鑑定家を雇い、自らは町人に変装し、金にものを言わせる形で舶来品を漁り、裂地、中国陶器や茶道具を大量に買い付け加賀藩におさめた。
そのことによって前田家の古代裂のコレクションは全国一だとされるようになる。自然と加賀藩の繊維製品や染織の参考品となるようになり工芸の発達を進めて来たのです。三百年以上も前の事柄や、藩主自らが美術品のことを好きだったことにより、関連のある工芸美術の発達を促したのです。また一方で世の中が平和になる事で生活の向上が優れた美術工芸の需要も刺激してきました。
その時代の優れた作品は工芸史上の重要な資料、あるいは作者の技法が特異のもの、外国製品でも我が国の工芸史上に関連のあるものは国が国宝や重要文化財に指定し保護されてきました。石川県には国宝が5点、重要文化財が17 点指定されて(昭和41 年時点、平成28 年では国宝2点、重要文化財21 点~石川県HP より~)いますが、そのほかに県指定の文化財も43 点(平成28 年現在45 点)有ります。
工芸品として石川県の誇りとも言うべきものは国宝指定の仁清作「雉香炉」が県の所有となっております。これは石川県立美術館にて見ることが出来ます。仁清は京都の陶工で日本の陶工の第一人者として知られております。その人生に於いてもっとも秀作のもので元は金沢の素封家山川さんの秘蔵品が寄付されたものです。
同じ仁清作で梅花模様の平水指がありますがこれも素封家石黒伝六さんの愛蔵品であったものを寄贈されたものです。近頃外国の美術愛好家を案内すると雉よりも感嘆することがあり、こちらも名品だと思います。
石川県内には国宝に指定された「正宗」の名刀があります。正宗と言えば刀の中の刀で前田家所蔵の正宗、河北郡の個人蔵の金象嵌された、本阿弥光悦の鑑定した正宗があります。このほかに「国光」も名工とされ、白山比咩神社の短剣も国宝となっております。
重要文化財は数多くあり、その中でも「筒井筒」という茶碗があります。茶の湯を嗜む人であれば一度は一杯のみたいで思うのがこの茶碗でしょう。大和国領主、筒井順慶所蔵であったものが秀吉に献上され秀吉も愛用していた茶碗でしたが、小姓が落として五つに割れてしまい秀吉に手打ちにされそうになった時に細川幽斎がとっさに「「筒井筒 五つにわれし井戸茶碗 とがをばわれに 負ひしけらしな」と狂歌を詠んだことにより許されたというものです。

(記 大島 広士)

 

世界の名作家具 vol.6
カッシーナ社:キャブ アームレスチェア

 イタリアの建築家マリオ・ベリーニにより1977 年に発表されて以来、イタリアンモダンデザインを代表する椅子として、数多のメディアで絶賛されている商品です。金属のフレームに、高級感溢れる厚革のジャケットを被せるという画期的な発想で構成されています。フレームと厚革が作り出すテンションによって、背もたれのフィット感と抜群の座り心地を実現しています。カッシーナ独自の厳しい基準をクリアーした最高級の鞣し革は、使い込むほどに身体に馴染み、味わいを深めていきます。ニューヨーク近代美術館 所蔵作品(¥168,000 ~)

 

世界の名作家具 vol.7
カッシーナ社:ヒルハウス

 チャールズ・レニー・マッキントッシュのデザインした数多くの家具の中でも、いちばん広く知られているのがこのラダーバックチェアです。オリジナルは今なおヘリンズバラのヒルハウスの寝室に置かれています。その極端なまでのハイバックとデザインから感じられる抽象的な装飾は、この椅子を座るためだけでなく、観賞するためのものとしても考えたマッキントッシュの意図がうかがえます。また最上部の格子に繋がっていく姿には、日本的な美しさも感じられます。ニューヨーク近代美術館 所蔵作品(¥320,000)