物価の経済分析
日本銀行
金沢支店長
白塚 重典

 金融政策の目標は物価の安定です。言ってみれば、インフレでもデフレでもない状況を実現し、維持していくということになります。
この物価の安定を測る物差しは、消費者物価指数という経済統計で、家計が購入する財・サービスの価格を総合的に捉えるものです。ただ、この物価の計測というのは、意外と難しいものなのです。
そもそも、物価は、一般的な財・サービスの価格動向をサンプル調査によって捉えようとします。このため、何らかの計測誤差が混入することは避けられません。また、物価は、品質を一定に保ったとした場合の価格変動をみるものです。そのために、実際には観察できない品質変化を一定の約束に従って推計し、それを観察された名目価格の変化から控除します。
この品質評価の仕方の一つとして、「ヘドニック法」という統計的な手法があります。パソコンを例にとると、その価格と性能を捉える様々な指標(たとえば、CPU の処理速度、メモリやハードディスクの大きさなど)の関係を回帰分析という統計的手法で分析し、品質をこうした機能指標を統合したものとして評価します。
私は、1987 年4月に日本銀行に入行し、27 年が経過しました。この間、様々な部署を経験してきましたが、仕事の中身としては、一貫して「エコノミスト」として、金融経済の調査・研究に従事してきました。そのなかで、30歳台初めまでの駆け出し時代の主な仕事は、この物価の計測に関するものでした。

 

ワインあれこれ(第 10 回)
―ワインの帝王―

 「パーカー・ポイント 90 点以上!」こんな見出しをワイン売り場で見かけたことはありませんか?これは現在、ワイン界で最も影響力のあるアメリカのワイン評論家、ロバート・パーカー Jr による採点法で 90 点以上を獲得した、という意味です。
ロバート・パーカー Jr は、もともとは弁護士をしていましたが(当クラブにもワイン好きな弁護士がいますね)、趣味のワイン好きが高じて「ワイン・アドヴォケイト」というワインに関するニュース・レターを発刊します。多くの評論家が「1982 年のボルドー・ワインは出来が良くない」とする中、パーカーのみが偉大なる出来であることを的中したことから一躍有名になりました。以降、彼の著書「ワイン・バイヤーズ・ガイド」はワイン愛好家のバイブル的な存在として扱われています。
また、ワインを単純明快な 100 点満点方式のパーカー・ポイントで採点することによって、それまで解かりにくいと思われていたワインを世界中に普及させたと言われています。
ワインの外観、香り、風味や後味、全体の質、熟成のポテンシャルなどで採点されるパーカー・ポイントですが、85 点以上を獲得しているワインは世界中のワインのうち僅か 0.1% にすぎません。
また、パーカー・ポイントはワインの価格にも影響を与えます。最近ではボルドーのシャトー・ポンテカネ 2009 年が 100点満点を獲得し、価格が跳ね上がりました。
しかしながら、パーカーも人間で好みがあり、「果実味が強く、凝縮感のあるワインを好む」と言われたため、世界中のワイナリーが高得点を目指して画一化されたワイン造りに傾倒する「Parkerize」(パーカー化する)現象が批判されました。
ワインは嗜好品で人それぞれに好みがあり、パーカー・ポイントもあくまでも一つのモノサシにすぎません。
芸術品を 100 点満点で採点すること、たとえば「ルノワールのこの作品は 92 点で、ピカソのあの作品は 98 点だ」と評することに意味が無いのと同じだと言われます。
そのことを念頭にパーカー・ポイントをワイン選びの参考にするのもよろしいかと思います。

(記 北川雅一朗)